遺伝子解析装置 i-densy IS-5320 遺伝子検査の未来形 前処理・増幅・検出がこの一台で

i-densy IS-5320 Q&A

T.遺伝子基礎編

DNAはデオキシリボ核酸(Deoxyribonucleic acid)を省略した名前であり、地球上のほぼ全ての生物において、遺伝情報を担う物質です(一部のウイルスはRNAが遺伝情報を担っています)。

DNAはアデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の4つの塩基、デオキシリボース(五炭糖)、リン酸から成り立つ構成単位(ヌクレオチド)をもっています。

ヌクレオチドは連結し、鎖状の分子構造をとっていきます。このヌクレオチドの列が「遺伝に関する情報」をもっています。

鎖状に連なったヌクレオチド

DNAの構造は2重らせん構造を取っています。

2重らせんを形成する際には、相補的な塩基(AとT,CとG)同士が結合するように配列されます。DNAが相補的な塩基同士と結合した2重らせんとなっている理由は、より小さい体積でより多くの遺伝情報を持つことができること、相補的であるために損傷などが起きた際の修復が容易であることなどが挙げられます。

塩基の相補的な組み合わせ

RNAはリボ核酸(Ribonucleic Acid)を省略したものです。RNAのヌクレオチドは塩基がアデニン(A)・シトシン(C)・グアニン(G)・ウラシル(U)の4つから構成されており、DNAで言うチミン(T)がウラシル(U)に置き換わった形になります。また、ヌクレオチドを構成している糖もDNAではデオキシリボースでしたが、RNAではリボースとなっています。

RNAもDNA同様にヌクレオチドが結合して鎖状の形をとります。RNAの主な役割は、DNAを鋳型として合成(転写と呼ばれています)され、DNAの情報を一時的にコピーすることです。この一時的にコピーされたRNAを設計図として体内ではタンパク質を合成しています。

遺伝情報発現に直接関わるRNAには以下の3種類が存在します。

【伝令RNA (mRNA)】
伝令RNAは、メッセンジャーRNA、mRNAとも呼ばれ、タンパク質合成部位であるリボソームにDNAの情報を伝える役割をするRNAです。遺伝情報をもとにタンパク質が合成される場合には、RNAポリメラーゼという酵素の働きにより、DNAに対して相補的な配列を持つmRNAが転写され、次にリボソームにより、mRNAの配列に基づいたタンパク質の合成が行われます(これを翻訳といいます)。このように、DNAがいったんRNAへと転写され、RNAを鋳型としてタンパク質への翻訳が行われるという、一連の遺伝情報の流れをセントラルドグマと呼びます。

【運搬RNA (tRNA)】
運搬RNAは、トランスファーRNA、tRNAとも呼ばれ、タンパク質を合成する際に、特定のアミノ酸をリボソーム内部へと導入するRNAです。

【リボソームRNA (rRNA)】
リボソームRNA (rRNA) は、細胞内でタンパク質合成を行うリボソームを構成しているRNAです。

RNAはDNAと異なり1本鎖で存在していることがほとんどで、その鎖長もDNAより短くなっています。 RNAが1本鎖である理由としては、DNAという設計図を一時的にコピーするというのがRNAの主な役割となるため、DNAのように2本鎖である必要が無いためであると言われています。

DNAは細胞の中の核に存在しますが、DNAは約1.8mもの長さがあり、そのままでは絡まってしまいます。このため、核内のDNAは染色体という構造を取り、折りたたまれた状態で格納されています。

染色体はDNAとヒストンというタンパク質により構成されており、DNAはヒストンを芯として巻きつけられていくことで折りたたまれ、染色体となり核内に格納されています。

タンパク質はDNAから以下の流れを経て合成されています。

【転写】
まずDNAの2本鎖がほどけ、一方のDNA鎖を鋳型としてmRNAが合成されます。この過程を転写と呼びます。2本のDNAのうち、鋳型となるDNAは決まっており、鋳型となるDNAをアンチセンス鎖、もう一方のDNAをセンス鎖と呼びます。つまり、mRNAはセンス鎖と同じ配列のコピーとなります。

DNAは体内の全てのタンパク質を作るための情報を持っていますが、転写によって作成されるmRNAは全ての情報をコピーするのではなく、作成したいタンパク質の情報をコードした部分のみをコピーします。

【スプライシング】
典型的な真核生物においては、DNAから転写されたままのmRNAには、イントロンと呼ばれる遺伝情報をコードしていない部分が存在しています。スプライシングでは、このイントロンを切り取り、遺伝情報をコードしているエクソンをつなげ合わせる過程が存在します。 また、転写されたmRNAを保護するため先頭にはキャップ構造、最後尾にポリA鎖を付加します。

【翻訳】
転写・スプライシングされたmRNAは、そのヌクレオチド配列を設計図として、アミノ酸を結合させていき、タンパク質を合成します。このヌクレオチドの配列をコドンといい、アデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・ウラシル(U)の中から塩基を3つ組み合わせることでアミノ酸を指定しています。たとえば、AACという配列はアスパラギン、CACという配列であればヒスチジンをコードしています。

以下にコドン表を示します。

コドン表
1番目の塩基 2番目の塩基 3番目の塩基
U C A G
U UUU Pre UCU Ser UAU Thr UGU Cys U
UUC UCC UAC UGC C
UUA Leu UCA UAA (終止) UGA (終止) A
UUG UCG UAG UGG Trp G
C CUU Leu CCU Pro CAU His CGU Arg U
CUC CCC CAC CGC C
CHA CCA CAA Gln CGA A
CUG CCG CAG CGG G
A AUU IIe ACU Thr AAU Asn AGU Ser U
AUC ACC AAC AGC C
AUA ACA AAA Lys AGA Arg A
AUG Met(開始) ACG AAG AGG G
G GUU Val GCU Ala GAU Asp GGU Gly U
GUC GCC GAC GGC C
GUA GCA GAA Glu GGA A
GUG GCG GAG GGG G

ある特定の形質に関する遺伝情報が存在する染色体の部位を、遺伝子座(locus)といいます。細胞には相同染色体が2本ずつあるため、同じ遺伝子座は相同染色体の対応する部位にあります。その遺伝子座にある遺伝子は、父親と母親からの遺伝情報を引き継いでいるので、異なる遺伝情報を持つことになります。このように、相同の遺伝子座にあって、異なる遺伝情報を有する遺伝子を、対立遺伝子(allele)といいます。 仮に対立遺伝子をAとaとした場合、対立遺伝子の組み合わせは3通りあります。 @ AAという1つの対立遺伝子のホモ接合体 A Aとaの2つの対立遺伝子のヘテロ接合体 B aaという対立遺伝子のホモ接合体 このような対立遺伝子の組み合わせを遺伝子型といいます。そして、各遺伝子型にはそれぞれに対応した形質があり、これを表現型といいます。

遺伝子型 表現型
AA 黒色の目
Aa 黒色の目
aa 青色の目

遺伝子型と表現型はいつも厳密に対応するわけではありません。仮にAという遺伝子が「黒色の目」、aという遺伝子が「青色の目」の遺伝情報を持っていたとします。このとき、Aaというヘテロ接合体の目の色が黒色となれば、Aが優性、aが劣勢となり、遺伝子型と表現型は右の通りとなります。

U.測定原理編

PCRはポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)の略で、遺伝子の増幅技術の名称です。2本鎖のDNAは、水溶液中で高温になると、1本鎖のDNAに分かれます。1本鎖となる温度はDNAの塩基構成および長さ(塩基数)によって異なり、長いDNAほど高い温度が必要になります。また、1本鎖となったDNAは温度を下げると相補的なDNAが結合し、元の2本鎖に戻ります。これをアニーリングといいます。PCRはこのDNAの性質を利用して増幅を行っています。

【PCRの原理】
PCRでは、増幅対象のDNA、DNA合成酵素(DNAポリメラーゼ)および大量のプライマーと呼ばれるオリゴヌクレオチドを予め混合し、上記の変性・アニーリングを行います。その結果、長い対象1本鎖DNAの一部にプライマーが結合した形ができます。プライマーとは増幅させたいDNA領域を挟み込むようにDNAと結合するDNA断片で、ここを起点としてDNA合成が開始されます。

この状態でDNAポリメラーゼというDNAを合成する酵素が働くと、プライマーが結合した部分を起点として1本鎖部分と相補的なDNAが合成されます。DNAが合成され2本鎖となると、再び高温にしてDNA変性から繰り返します。このサイクルを何度も行うことによって、増幅させたいDNA領域は指数関数的に増加していきます。

DNAは水溶液中では温度を上げると2本鎖から1本鎖へと分かれますが、溶液中の全てのDNAのうち、半分が解離する温度をTm値(melting temperature:融解温度)といいます。塩基の結合力が強い場合、より高い温度にしなければ塩基は解離しないためTm値は高くなり塩基の結合力が弱い場合、低い温度で塩基は解離するためTm値は低くなります。

DNAの結合力はその配列中にG(グアニン)とC(シトシン)がどれくらいの割合で含まれているかによって変化します。A(アデニン)とT(チミン)の結合力に比べ、G(グアニン)とC(シトシン)の結合力のほうが強いため、GC含量が多いDNA配列のほうがTm値は高くなります。

DNAの塩基にはそれぞれペアとなるものが存在していますが(AとT・GとC)、DNAはお互いの配列が完全にペアとなる場合にしか結合できないのではなく、ある程度相補的な塩基配列のオリゴヌクレオチド同士であれば結合することができます。

お互いの配列が完全に相補的である場合をパーフェクトマッチ、ある程度相補的ではあるが完全に一致していない場合をミスマッチと言います。

パーフェクトマッチはミスマッチに比べ結合力が強いため、Tm値はミスマッチに比べて高くなります。

SNP(スニップ)とはSingle Nucleotide Polymorphismの頭文字を取ったもので、日本語では「一塩基多型」とよばれています。DNA配列中の塩基が1つだけ変化してしまう変異が、ある集団内で1%以上の頻度で見られる時、これをSNPと呼びます。これに対し、1%未満の頻度で起きている変異は突然変異と呼んでいます。

良く知られているSNPとしてアセトアルデヒド脱水素が挙げられます。アルコールに強いか弱いかという体質は、飲酒した際に体内で生じるアセトアルデヒドを分解する酵素であるアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)のSNPに依存することが知られています。517個のアミノ酸からなるALDH2の487番目のグアニンが他の塩基に置き換わっているSNPを持つ場合、毒性の強いアセトアルデヒドが体内で分解され難く、体内に長く留まりやすい体質となります。

上記のようにSNPを解析することで薬物の代謝・体質などを知るとこが可能となります。SNPを解析することで、それぞれの体質に合わせた投薬・治療が可能となり、将来的には個の医療、いわゆる「テーラーメイド医療」を実現することができるようになります。

いいえ、リアルタイムPCRはできません。

i-densyは、DNAやRNAの定量をする測定装置ではなく、測定対象DNAをPCRにより増幅し、QProbeを結合させて、測定対象DNAの有無判定やSNP解析を全自動で行えます。測定サンプルが血液や口腔スワブの場合は前処理も含めて全自動で測定できます。

V.測定操作編

検体に全血を使用するときは、抗凝固剤としてヘパリンまたはEDTAを使用してください。

採血後1ヶ月間冷蔵保存した血液で測定が可能であったというデータがありますが、貴重な検体を保存する場合は凍結保存してください。口腔スワブを保存される場合は、検体を口腔スワブ採取チューブからエッペンチューブなどに移して凍結保存してください。

偽陰性について

偽陰性については大量の増幅阻害物質の混入による増幅阻害やプライマー、プローブ部位の変異の存在によるものが考えられます。前記の増幅阻害については、シグナルがほとんど得られないため測定結果を確認することで推定が可能です。後記の変異の存在によるものは、サンプルのプライマー、プローブ領域を含む配列解析を行うことで推定が可能となります。

偽陽性について

増幅産物のコンタミによる偽陽性が考えられます。通常i-densyで測定後の増幅産物は密閉容器(反応チューブ)から取り出さずに廃棄されるため、これらがコンタミの原因となる可能性は殆どありません。 しかし、反応チューブの破損等の事故や、他の実験から漏れ出した増幅産物により、測定環境が汚染されてしまった場合は、偽陽性を示す可能性があります。

i-densy Packや対照法で用いているプライマー部位やプローブ部位に変異が存在している可能性が考えられます。プライマー部位に変異が存在する場合は、増幅が正常に起こらず正しい測定結果が得られないことがあります。また、プローブ部位に変異が存在する場合は、プローブのTm値が低くなりすぎるため、正しい測定結果が得られないことがあります。

プライマー、プローブを含まないi-densy Pack UNIVERSALを用いることで、任意の項目の測定が可能です。測定したい項目のプライマーやプローブを合成し、i-densy Pack UNIVERSALに加えるだけで様々な測定項目に対応することができます。

日本人でのみ試薬性能評価を行っているため、他の人種での性能は確認しておりません。

プライマー、プローブの配列につきましては、公開はしておりません。